2017年4月14日金曜日

イースター前に報じられた2つの事件(追記あり)

今日はイースター前のグッドフライデー。インドネシアは祝日です。今日から三連休となっているようです。

イスラム教人口が9割近くを占めるインドネシアですが、イスラム教は国教ではありません。イスラム教のほか、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー教、仏教、儒教が宗教として認められています。日本で一つに括られるキリスト教は二つに分かれています。

そして、建国五原則(パンチャシラ)の第一原則として、唯一神を信じることが求められています。ヒンドゥー教、仏教はそうなのか?、儒教は宗教なのか?といった疑問は、とりあえず、ここでは脇に置きましょう。

ちなみに、アニミズムのようなものは宗教ではなく「信仰」というカテゴリーに入るので、アニミズムを信じている人も前述の宗教のどれかに分類されているのが現状です。

というわけで、イスラム教人口が世界一多いインドネシアでも、他宗教のお祝いも行われ、それらは国の祝日となっています。イースターもその一つです。他宗教への寛容がインドネシアの基本中の基本となっているのです。

ところが、今日、他宗教への寛容という観点からすると、残念な出来事が少なくとも2件報じられていました。

一つ目は、シンガポール・チャンギ空港での4月9日の出来事です。

インドネシアの西ヌサトゥンガラ州知事が航空会社のカウンターでチェックインをするために並んでいました。州知事は、ちょっと飛行機の時間を確認しようと思って列から外れ、確認した後、再び列に戻りました。

すると、州知事の後ろにいた若者が「順番を守れ」といって抗議しただけでなく、州知事に対して汚い言葉で罵ったのです。「プリブミだからな、土人だからな、このドブネズミ野郎!」と(原語では、Dasar pribumi, dasar Indo, Tiko (tikus kotor) ! と言ったとされます。インドネシア語日刊紙 Republika の記事を参照)。

恥ずかしい話ですが、今回の件で、Tiko ! という罵り言葉を初めて知りました。

この西ヌサトゥンガラ州知事は36歳で、インドネシア国内の州知事としては最年少なのですが、ロンボク島を本拠地とするイスラム社会団体のナフドゥラトゥール・ワタンの若き指導者です。

州知事に対して罵った若者は、インドネシア国籍の華人青年でした。このため、華人がムスリムを侮辱したという話になって、ナフドゥラトゥール・ワタンの関係者の怒りが治りません。もっとも、州知事はこの若者に列を譲っただけでなく、若者の無礼を許したということで、一気に評判が上がりました。

二つ目は、今日の昼、ジャカルタのモスクでの金曜礼拝での出来事でした。

イスラム教徒は、どのモスクで礼拝を行なってもかまいません。休職中のジャカルタ首都特別州副知事で、今回の選挙で、再選を目指して州知事候補のアホック現知事(休職中)と組んで立候補しているジャロット氏が、いつものように、金曜礼拝をするため、選挙活動場所の近くのモスクに入りました。

そのモスクでの金曜礼拝の説教で、説教師は、「次の州知事選挙ではムスリムの候補が選ばれるべき」と述べて、アホック=ジャロット組の対抗馬であるアニス・サンディ組への投票を促す発言を繰り返しました。金曜礼拝は政治の世界とは別だと思っていたジャロット氏は大変驚いたということです。

しかし、彼はそこで感情をあらわにすることなく、普段通りに礼拝を終えました。礼拝が始まる前から、ジャロット氏が来ていることは他のイスラム教徒たちも知っており、礼拝前には一緒に写真を撮ったりしていたのですが、礼拝終了後、一部のイスラム教徒がジャロット氏がいることに不快感を示し、モスクからすぐ出て行くように強制したということです。

(追記)モスク側からは、「モスク側には何の連絡もなく、ジャロット氏が支持者やメディアと一緒にやってきて、礼拝の後に選挙運動を行おうとしたから、お引き取り願った」という説明が出されているようです。実際にそのような意図がジャロット氏側にあったかどうかは不明ですが、モスク側から見るとそのように見えたようです。

ジャカルタでは、キリスト教徒のアホック氏を支持するイスラム教徒の礼拝や葬儀をモスクが拒む事例が散見されます。金曜礼拝の説教が露骨に特定候補への投票を促す内容になるなど、イスラム教を政治的に利用する動きがますます強く見られるようになりました。

ジャカルタ首都特別州選挙監視委員会は、この件について、選挙運動違反になるかどうか調査を行うことにしています。アホック氏が「コーランの一節を使って非ムスリムの候補への投票ができないというならそれは仕方がない」と発言したことを、一部のイスラム指導者たちが「コーランへの侮辱」として強く批判しています。同時に、彼らは、コーランの一節を使って、「非ムスリムの候補への投票をするな」と唱え続けています。

異なる他者への寛容という精神は、インドネシア全体でかなり根付いていると思いますが、ちょっとしたことで、政治と絡めて、特定勢力の利益のために利用され、分断を人為的に作ろうとする動きを促している兆候があります。

嘘や偽情報を意図的に流して、人々を煽る手法がインドネシアでもよく見られるようになりましたが、これは今や、世界中どこでも見られるものです。それが広まる前に、嘘であり偽情報であることがまだわかる段階で早めにそれを摘んでおく必要があります。

イースターに起きたインドネシアの2つの事件は、大きな話ではありませんが、大きな騒ぎとなる前に、真実のかけらがまだはっきりと残っている間に、処置をしておく必要があることを改めて認識させてくれました。

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