2020年8月24日月曜日

よりどりインドネシア第76号の発行と舞台裏

インドネシアの若者とナショナリズム

インドネシアの独立宣言記念日にあたって


8月23日、よりどりインドネシア第76号を発行しました。今回の発行にあたっての私の舞台裏のお話をします。

当初、戦後75周年に合わせて、日本占領期のインドネシアのある出来事について書こうかと思っていました。それは、900人ものロームシャが死亡したモクタル事件(モクター事件)と呼ばれるある事件です。

それは1944年8月以後、東ジャカルタのクレンデルにある収容所で起こった事件でした。破傷風ワクチンの接種をした後にロームシャが次々に亡くなった事件ですが、その中に破傷風毒素が入っていたことが分かりました。果たして、破傷風毒素が誤って混入されたのか、それを故意に混入したのか、日本軍による人体実験だったのか、真相は闇のままです。

日本軍は当時、現地人医師モクタル(モクター)が混入を認めたとして、モクタルを処刑しました。ところが、その後、当時の目撃談などから、自分以外の現地人医師を救出するためにモクタルが罪を被ったという証言が現れました。当時の日本軍のなかに、731部隊に関係していた人物が当時現地に居て、破傷風毒素が混入されたバンドゥンの防疫研究所に所属していたことが明らかになっており、日本軍による関与と証拠隠滅の疑いが示唆されています。

ただ、当時、他の感染症ワクチン開発において、その緊急性から、日本で動物実験を行わずにいきなり人体実験を行ったケースがいくつもあったことや、日本軍のロームシャに対する非人道的な態度、スマトラやスラバヤで感染症の日本人専門家が現地人を何百人も殺したと言っていたという話などを総合すると、日本軍の関与が疑われることも十分あり得るのではないかと思ってしまいます。

そうした話をまとめてみようと思ったのですが、何せ、色々と関係の資料を読み込む必要があるのと、とても優秀な疫学者のモクタルの名誉回復を果たしたいという意識が事実以上の物語を作ってしまっている可能性も考えられたため、まだ不確かなままに書くのは好ましくないと考え、書くのを止めにしました。

その代わりに取り上げたのは、経済政策の話です。インドネシアの2020年第2四半期のGDP成長率マイナス5.32%は、インドネシア史上2番目の落ち込みでしたが、周辺他国と比べればかなり健闘したと言える数字でした。そして、8月14日の大統領演説で発表された2021年度予算案についても概略を説明してみました。

最後に、轟さんの「往復書簡-インドネシア映画縦横無尽」の読み応えのある原稿が送られてくるのを待って、8月23日に発行しました。

というわけで、今回は、以下の5本になります。

▼2021年度予算案と今後の経済の展望(松井和久)⇒ 第2四半期のマイナス成長の後、新型コロナ対策と経済回復を目指す2021年度予算案が発表されました。今後の経済を松井が展望しました。https://yoridori-indonesia.publishers.fm/article/22739/

▼ウォノソボライフ(32):良妻賢母2020(神道有子)⇒ 神道さんの好評連載、今回は、地元のPKKの活動に着目しながら、ウォノソボにおける女性の社会活動と社会的地位向上を考えます。そこにはフェミニズムとは異なる面があるようです。https://yoridori-indonesia.publishers.fm/article/22737/

▼プニン沼伝説(太田りべか)⇒ 太田さんは、プニン沼伝説の基本型とそこからの派生型を紹介し、ジャワの民話がどう伝承されていくかを示しています。同時に、物語の最期に教訓が常に最後に書かれることに疑問も呈します。https://yoridori-indonesia.publishers.fm/article/22738/

▼ジャカルタ寸景:踏切の番人たち(横山裕一)⇒ 横山さんは今回は短編ですが、ジャカルタのありふれた風景の一つ、鉄道踏切の番人たちの様子をやさしい眼差しで描いています。ボランティアである彼らの思いに迫ります。https://yoridori-indonesia.publishers.fm/article/22736/

▼往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第3信:「辺境」スンバ島からのスハルト体制批判映画『天使への手紙』をめぐる評価軸(轟英明)⇒ インドネシア映画往復書簡の第3信は、轟さんがスンバ島を舞台とするガリン・ヌグロホ監督の初期作『天使への手紙』を取り上げ、2つの観点から新たな解釈を試みました。映画ファンは必読の内容です。https://yoridori-indonesia.publishers.fm/article/22743/

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