2017年2月18日土曜日

インドネシアから日本への難民急増?

新聞報道によると、日本へ難民申請するインドネシア人の数が急増したとのことです。

2016年の難民申請者総数は1万901人で、国別のトップがインドネシア人(1829人)で、以下、ネパール人(1451人)、フィリピン人(1412人)、トルコ人(1143人)、ベトナム人(1072人)の順でした。

ちなみに、2015年のインドネシアからの難民申請者は969人、2014年はわずか17人でした。その急増ぶりには目を見張るものがあります。

インドネシアの状況をよく知らない方がその数字だけを見たら、ここ数年のインドネシアでは、政情不安やテロ頻発など、何かとんでもないことが起こっていて、危険を感じた人々がたくさん増えて、難民申請が急増したのだ、と思うことでしょう。

でも、まさか、本当にそうなのでしょうか。

プロのインドネシア・ウォッチャーの私は毎日現状を見続けていますが、そのような、難民を発生させるような事態は一切起こっていません!

インドネシア語のメディアでも、インドネシアから日本への難民申請急増は話題になっていて、なぜそんなことが起こるのか理解できない、という話が聞こえてきます。

実は、インドネシアは、難民の受け入れ国でもあるのです。

難民の権利保護のための市民社会ネットワーク(Indonesian Civil Society Network for Refugee Rights Protection)という団体によると、2014年6月30日時点で、UNCHRインドネシア事務所に登録された難民総数は1万116人で、うち6286人が亡命者です。難民の出身国はアフガニスタン、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、イラン、イラクなどです(この数字の出所はこちら)。

インドネシアは国際難民の経由地としても知られていて、難民の多くは一時的にインドネシアへ滞在しつつも、最終目的地としてオーストラリアへの渡航を希望するケースが多いようです。なかには、不法なルートを使って、オーストラリアへ渡航しようとする難民を乗せた小さな船がインドネシア沖で座礁したり沈没したりし、インドネシア政府が彼らの救助へ向かう、といった事態も頻発しています。

すでに一人当たりGDPが3500ドルとなり、中進国化を意識し始めたインドネシアからの難民申請が増えているのは、理解しがたいことですが、その多くは、日本での就労を目的としているものとみられます。

東京オリンピックなども含め、単純労働者や建設労働者が日本で不足しているという情報は、インドネシアでもよく知られるようになりました。インドネシアは、日本が技能実習生や看護師・介護士として最も多くの人材を受け入れている国でもあります。帰国した彼らからの様々な就労に関する情報が流れています。

翻って、彼らの多くの出身元である農村では、農業で生計を立てるのが年々厳しくなっています。高収量品種米の導入に伴う化学肥料・農薬の多投などによって農地の肥沃度が低下し、生産性が上がらないだけでなく、農産物価格が低迷して、農業は儲からないと見なされています。子供たちは農業を継ぎたがらず、現世代で離農を覚悟している農家が増えています。他方、都市を中心に、国産よりも安くて質の良い野菜・果物・畜産物の輸入が増加を続けていて、農民の生産意欲を減退させている面があります。

しかし、それは、難民を発生させるほどの窮乏を農民に強いているという状況ではありません。日本も含め、どんな国でも、こうした産業構造の転換をどのように進め、国内産業を新しい段階へうまく適応させていくか、は重要な政策課題となります。その意味で、インドネシア政府による農業政策・産業政策・村落開発政策には、戦略的・計画的思考が欠けていると言わざるをえないと感じます。

日本の事業の現場では、難民であろうが技能実習生であろうが、とにかく働いてくれる人が欲しい、というところがあります。もちろん、外国人労働者だからといって、安くこき使えると今だに思っているとするならば、それはもう難しいはずです。日本もまた、新しい状況に合わせた、外国人労働力の受け入れ体制の構築と、日本社会自体のそうした状況への準備を進めていかざるをえないと思います。

でも、10年前、20年前に比べたら、まだまだ不備はあるものの、いつの間にか、日本社会はそうした外国出身の人々を社会の一部としてうまく受け入れ始めているのではないかという気もします。都市よりもむしろ地方で、そうした傾向が進んでいるのかもしれません。というか、人口減などにより、否が応でも、進めざるをえない状況になっていると行ったほうが正しいのかもしれません。

難民申請したインドネシア人を、現状で難民として認めるのは難しいですが、日本が他国から好かれ、彼らが働いてみたいと思うような国になっていくことも、世界の中で生きていくには、必要なことではないかと思います。

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